今更ながらシンドラーエレベータの話題を。
そのドイツ語風のスペルからも分かるとおり、本社をスイスのエビコンに置き、エスカレータや動く歩道では世界第1位、エレベータでは世界第2位のシェアを持つ世界有数の会社である。
今回の事故によって知名度が全国区になったのはある意味皮肉とも言えなくもないが、元々は日本エレベーター工業株式会社といい、'91年にシンドラーグループの仲間入りした会社である。しかし、日本では大手3社(日立、三菱、東芝)が市場をほぼ寡占しており、国内シェアは僅か1%強に過ぎない。
6/3の死亡事故以来、全国各地からトラブルが噴出しているが、その多くは自治体や公共施設であり、筆者の知人の会社のビルにも、実際シンドラー社のエレベータが使用されていると聞いている。おそらく今回の事故の原因は、既出の記事にもある通り、正常な定期点検が行われていないことによるものと思われるが、エレベータの原理そのものは各社ともそう違いはない。一般的には階上の機械室でワイヤーを巻き上げる巻き上げ式がほとんどで、機械の耐用年数は20年以上あり、各部品のメンテナンスさえきちんと行っていれば問題はなかったのではないだろうか。
通常バスタブ曲線と呼ばれる故障率の指標は、初期導入時と、経年劣化や性能限界による部品寿命が近づいた時に故障率がUPすることを示しているが、新設時はともかく、後者は定期的なメンテナンスにより引き伸ばすことが可能である。
メンテナンスは、概ねフルメンテナンス契約とPOG(Parts,Oil,Grease)契約の2種類に分かれ、新しいオフィスビルなどのエレベータは24時間遠隔監視される前者の形態、費用的な側面から住宅や施設は後者の場合が多い。一時多発したエレベータ内での事件(一時的に密室になるため)によって監視カメラが付いたエレベータを始め、業界の技術の進歩は目覚しいものがある。
しかし、それらを支えるのは結局のところ人の手である。車はリコールできるがエレベータはそうもいかない。コストダウンの余波を受けて保守料金までもが足元を見られる時代である。同社は安い入札によってシェア拡大を目指したが、これは何も港区住宅公社の保守を請け負っていたSECエレベータだけの問題ではなく、業界全体への警鐘である。
彼の死が無駄にならないことを祈りたい。
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